さて、今回で今昔物語集の源博雅と玄象のお話しは最後です。
末尾に「琵琶玄象の腹立ち」載せます。
とにかく進めましょう・・・
其玄象于今公財トシテ、世ノ伝ハリ物ニテ内ニ有リ。
此玄象ハ生タル者ノ様ニゾ有ル。
弊ク弾テ不弾負セレバ、腹立テ不鳴ナリ。
亦塵居テ不巾ル時ニモ、腹立テ不鳴ナリ。
其気色現ニゾ見ユルナリ。
在ル時ニハ内裏ニ焼亡有ルニモ、人不取出ト云ヘドモ、
玄像自然ラ出テ庭ニ有リ。
此奇異ノ事共也、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
内裏におさめられている。
玄象はまるで生き物のようであって、
へたに弾いて弾きこなせないと腹を立てて鳴らない。
その機嫌の良い悪いがはっきり目にみえるのである。
いつであったか、内裏が焼けた時にも、誰も取り出さなかったが、
玄象はいつの間にか庭に出ていた。
これは不思議なことだ、とこう語り伝えられていることだ。
〜〜〜〜
以上は今昔物語集の博雅と玄象のお話でした。
その後も様々な本を調べていましたところ、この琵琶はとても有名で、
逸話は数多くありました。十訓抄から・・・
昔より霊物にて、内裏焼亡の時も、人の取り出さぬ前に飛び出でて、
大庭(おほぼ)の椋(むく)の木の末にぞかかりける。
「百錬抄」では「式御曹司の東垣よりみつかった」とあります。
〜〜玄象の腹立ちについては・・・十訓抄より
十ノ七十 (琵琶玄象の腹立ち)
大宰大弐資道(だざいだいにすけみち)は、琵琶に名を得たりけるうへ、
これに心を入れたること、人にすぐれて、しばしも置くことなかりけり。
殊(こと)なる念誦(ねんじゅ)もせず、毎日、持仏堂(ぎぶつだう)に入りて、
仏前にて琵琶をひきて、人に数をとらせて、これを廻向(ゑかう)し奉りける。
よく心にしめるなりけり。
しかれども、帝より玄象をたまはりて、ひきけるに、いと調べえざりければ、
済政三位(なりまさのさんみ)、「玄象こそ腹立ちにけれ」といはれけり。
のちに、かの資通の弟子、経信卿(つねのぶきやう)、調べえざりければ、
「済政、いへることあり。今もその言葉のごとし」とぞ、時の人いひける。
これは、この人々のいまだいたらざる折のことにや、おぼつかなし。
【現代語訳】太宰大弐源資通(だざいのだいにみなもとのすけみち)は、
琵琶で有名になった人であったが、さらに心を入れて、
琵琶に没入するさまは、人並みはずれていた。
ほんの短い時間でも、琵琶から手を離すことはなかった。
これといったお勤めはしなかったのだが、持仏堂(じぶつどう)には毎日入り、
仏前で琵琶を弾き、人に数をかぞえさせ、
これを往生のための行として、お供えしていた。
本当に心から琵琶に染まり、馴れ親しんでいたのである。
しかし、そんな資通でも、帝から玄象を賜り、弾いたのだったが、
あまりうまく弾けなかった。
父の済政(なりまさ)三位(さんみ)はそれを聞き、
「玄象が臍をまげたのだ」と言われたという。
後のことであるが、この資政の弟子、源経信卿(みなもとつねのぶきょう)
も、玄象を弾くことができなかった。人々は、
「済政が前にああ言っていた。今も同じだ」と言ったという。
これらの話は、資通や経信といった人々が、まだ未熟だった頃の事なのだろうか、
はっきりしない所がある。
沢山の逸話がある琵琶、玄象は何でできていたのか?
紫檀の甲の継ぎ目なきにてあるなり。
とありました。
紫檀でできた琵琶はどんな音がしたのでしょう・・・
そのほかにも・・・江談抄には有名な琵琶が書き並べてありました
江談抄 五十八 琵琶
玄象(げんじやう)。牧馬(ぼくば)。井手(いで)。渭橋(ゐけう)為尭。
木絵(もくゑ)。元興寺(ぐわんごうじ)。小琵琶(こびは)。無名(むみやう)。
そうして枕草子には
御前にさぶらふ物どもは、みな琴、笛もめずらしき名こそつきてあれ。
琵琶は玄象、牧場・井手・渭橋・無名など。
とあります。
御前にあるものはみな、めずらしい名前がついている・・なんだか謎めいていて、
みな素敵な響きですね。
(☆めずらしいはおもむきある、などと訳した方が良いのかも知れません。
本題にある「無名」という琵琶を「名がない」からとした・・会話においてのウィットな表現が面白いのだと全注釈は述べていています。<秀句洒落すくしゃれ>全注釈の現代語訳は「めずらしい」ですが、学生さんがレポートに書くときっと×だと思います。趣味のブログなんで、そこのところお気をつけて。筆者注5/9追記)
枕冊子全注釈という本に玄象(上)の逸話がまとめておりました。
なんと二十二個のお話があります。
凄い・・(はじめからこの本を見ればよかった・・ぼそっと筆者独り言。)
このおはなし、枕冊子全注釈では九十七。全集(枕草子)では八九、大系(枕草子)では九三です。
ああ・・ついでに見つけてしまいました
玄象 (げんじょお) 観世 五番目 ・・父のお能の本にありました・・
村上天皇やら龍神やら藤原師長が出ています!
この次は此れにします。少し時間下さいませ。
では、また・・・
参考文献:
玄象琵琶為鬼被取語第二十四 巻二十四 本朝付世俗 今昔物語集
底本:実践女子大学蔵二十六冊本
日本古典文学全集 小学館
十訓抄 十ノ七十
琵琶「玄象」の腹立ち
玄象の由来
玄象の奇瑞 以上、新日本古典文学全集 小学館
枕冊子 九十七段 無名といふ琵琶の御琴
枕冊子全注釈 角川書店
△さん、こんばんは。
コメントをいただきありがとうございます!
書き方が紛らわしかったですね、スミマセン。父は、とりたてて趣味が無かったので、母やお友達といっしょに「お能」を習い始めたのでした。すいぶん仲間も増え、かなり楽しんで発表会の舞台に立っていました。(けれども、平家物語も源氏物語も読んだことは無かったようです。)
そんなワケで謡の本が多数残っており、本好きの私は、面白そうなお話しを探しては「へぇ〜」と調べています。
玄象がこんなに有名だったとは、調べてゆくうちに知りました。
どんな音色だったのだろう・・と興味が湧いています。
2008.05.15 21:54 URL | 丹桂 #S2b0Fqvo [ 編集 ]
不思議な玄象、会ってみたいですね^^
お父様も古典に通じてらっしゃるのですね!
2008.05.14 23:29 URL | △ #- [ 編集 ]
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